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「季節を味わってもらえることが和菓子の一番の魅力です」本郷三原堂 工場長 南実さん(45歳)

様々な業界で活躍中の大人にインタビューする「大人の散歩道」。現在、第一線で仕事する大人はこれまでどんな生き方をしてきたのか。今も昔も変わらない大切なことを伺っていきます。  
今回は、老舗和菓子店 本郷三原堂で働く南実さんのお話です。南さんは20年以上のキャリアを持つ和菓子職人。そんな南さんが考える和菓子の魅力とは。

本郷三原堂は、昭和7年創業、80年以上の歴史を持つ和菓子店です。ここで僕は、5年前から工場長として和菓子の製造全般の責任者をやっています。

四季が感じられる仕事がしたくて和菓子の世界へ

僕の両親があまり季節にこだわるほうではなかったので、せっかく四季を感じられる日本で暮らしているのにもったいないなとずっと思っていたんです。それで、高校生の頃、進路を考えたときに、四季を感じられる仕事をしたいなって。そのときに初めて、和菓子という世界を知りました。もともと、ものを作るのは好きでしたから、同じように季節を感じられる料理人という選択肢もあったんですが、僕は血を見るのが苦手で(笑)。そうやって、自分でできることとやりたいことを照らし合わせて、和菓子の専門学校に通うことを決めました。
一学年30人〜40人で2クラスあった専門学校のなかで、実家が和菓子屋さんではない子は、僕を含めて片手で数えられるくらい少なかったんです。入学した時点で焦りましたね。みんな実家のお手伝いで、基礎的な技術や専門用語を身につけていましたから。スタートラインが全然違ったんですね。でも、そのおかげで必死に勉強できたのかもしれません。

専門学校卒業後は五年間の修行期間

専門学校卒業後、荻窪にあるお店で五年間修行しました。和菓子業界では一般的に、学生あがりは最初から職人として雇われるわけではなくて、まず五年程度の契約で研修生的に勉強します。それが終わると、そのままそのお店で働き続けるか、他のお店で働くか選択できるんです。だから、僕の一代二代前の時代だと、その期間は、先輩たちに和菓子の配合を教えてもらえなかったそうです。生涯にわたってそのお店で勤め上げるということであれば話は別なんでしょうが、他のお店で働く可能性が高いとなると、配合を外に出したくない、だから教えない、と。でも、僕らの修行時代にはもう、そういうことはありませんでしたね。その配合を見られたからといって、じゃあ十年後そのままそれが使えるかというとそうでもないですから。手取り足取りとまではいかなくても、かなり丁寧に教育してもらえたので、昔と比べれば、僕らは楽をしていたんだろうなとは思います。

同じ和菓子でも材料の配合は日々変わっていく

和菓子の配合はどんどん変わっていきます。材料自体、年々良くなっていて、砂糖一つとっても二十年前と今では全然違いますし。だから、同じように作っても同じ味にはならない。そういった意味では、現在の配合で満足していたら、その店は終わりでしょうね。たとえば、本郷三原堂で銘菓と呼ばれる「大学最中」は、特徴であるどっしりとした甘みは引き継ぎつつ、できるだけ後味がすっきりとするように配合を少し変えています。今風の甘さ控え目ではなく、ベースの甘みは保ちながら。また、季節によって気温や湿度が変わるので、そこでも配合を変えます。砂糖一つまみ程度の違いなので、糖度計で測ってもわからないレベルでの調整ですが、違いが出る。それは、配合だけ知っていればできるというものではありません。一年を通して夏と冬の違いを経験して初めて、自分の中で技術として蓄えられていくんです。

勉強し続けなければすぐに置いてかれてしまう

僕は20年以上和菓子を作り続けていますが、まだまだ自分で一人前になったという感覚を持ったことはないですね。上にすごい技術と知識を持った先生方がたくさんいらっしゃるというのが大きいのかもしれません。日本和菓子協会のなかに、東和会という和菓子職人の集まりがあって、そこで先生方にお会いしたりすると、自分はまだまだだなと痛感させられます。同世代であっても日々勉強している方達はレベルが全然違う。だから、僕も未だに勉強し続けているという意識です。新しい材料もどんどんメーカーさんから出てきますし、ホッと一息ついていたら、すぐに置いていかれてしまいますね。

和菓子と洋菓子の境界線は実は曖昧

定番商品のほか、新商品も結構出していますよ。もちろん、続くものもあれば、一過性で終わってしまうものもあります。僕は、フルーツを使った新商品をよく作っています。三原堂の80周年記念菓子「果宝(かほうもの)」は、8種類のフルーツを三層にした蒸し菓子で、今もお店に並んでいますね。そもそも、和菓子というかお菓子の始まりは柑橘系のフルーツから始まっているので、フルーツと和菓子の相性は悪くないんですよ。それに、和菓子と洋菓子の区切りというのは実は曖昧なのかなという感じがします。そういう境界線を引いているのって日本国内だけなんですよね。海外から見たら、洋菓子もジャパニーズスイーツ。もちろんもともとは海外から入ってきてはいるけど、もう日本独自で進化してしまっていますから。海外では、日本の洋菓子も和菓子の一つとして見られていることが多いと聞いたことがあります。

和菓子の持つ潔さが長い歴史を作った

やっぱり和菓子の一番の魅力は、季節を味わってもらえることだと思います。お店に入った時点で季節を感じられる。店内の飾り付けもそうですし、商品そのものがガラッと変わります。今はそういうのって少ないですよね。たとえば、柏餅は作ろうと思えば一年中作れますから、年間を通して売ることもできます。だけど、もし季節感を無視して年中売り続けていたとしたら、「美味しい」というだけで、だんだん下火になって、和菓子の歴史はここまで長く続いてこなかったのかなと思います。5月5日のこどもの日で、「今年はこれまで、また来年」という潔さがやっぱり和菓子という世界の良さだと思いますね。一週間前後のズレはあるかもしれませんが、6月まで柏餅を引っ張るというお店はまずない。その潔さによって、季節を感じることができますし、逆にたとえば、桜の開花前でも店頭に桜餅が並んだら、春の到来を感じることができますよね。

無くても困らないものだからこそ和菓子でほっとしてほしい

和菓子は、難しく考えず、とにかく好きなように食べてくれたらいいなと思っています。いつも下の子たちには言っているんですけど、結局お菓子って無くてもいいものなんですよね。メインの食事とは違うので、お菓子から栄養をとらなければ生きていけないわけでもないし、無くなったからといって誰が困るわけでもない。それでも、そういったものを作らせてもらえる環境があるので、お菓子を食べて少しでもほっとしてもらえたらいいなと思って作っています。

本郷三原堂
南実さん

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