開く
閉じる

楽しいお部屋を探したい

「大人は自分の仕事にいつまでも責任を持つ」 彫金家 小川真之助さん(48歳)

様々な業界で活躍する大人に、これまで地道に積み重ねてきたことや乗り越えてきた苦労をインタビューする「大人の散歩道」。現在、活躍する大人はどんな生き方をしてきたのか。今も昔も変わらない大切なことを伺っていきます。  
 今回は、彫金家 小川真之助さんのお話です。祖父の代から続く家業を継ぎ、2007年には39歳の若さで東京都伝統工芸士に認定された小川さん。彫金という仕事にかける思い、語っていただきました。

よく勘違いされるんですが、彫金の「金」はゴールドではなく金属の「金」です。つまり、金属全般を彫るのが彫金家という仕事ですね。

親父からは家業を継ぐのを止められた

子供の頃からとにかくものを作るのが大好きでした。遊び場といえば自宅にある祖父と親父の仕事部屋。そこで彫金の道具を使って四六時中なにかを作っていたんです。だから、自分としては彫金家を継ごうと考えるのはごく自然なことだったと思います。
でも、親父からは止められました。僕が大学を卒業したのはバブルの全盛期で、就職は完全に学生の売り手市場。一方、彫金の世界は、かつてのように問屋からの注文を待っていればいいという時代ではなくなっていた。いいものを作るだけでなく販路も開拓しなければ食べていけないという状況。親父がやめておけと言いたくなるのもわかりました。でも、なんとか説得して弟子入りしたんです。彫金家になることは、子供時代から僕の人生の大前提でしたから。

マニュアル通りにやればうまくできるというわけではない

修行を始めて、自分の思い通りに彫れると少し感じられるようになったのは30歳を過ぎてからのことでした。そこでようやく楽しくなってきた。我々の仕事に限らず、最初の基礎練習が一番辛いわけですよね。そこでどれだけ我慢できるかが勝負。
最近、「師匠から見て盗め」という言葉に対して「師匠が懇切丁寧に教えればいいんじゃないの」という反論を耳にすることがあります。でも、それは不可能なんです。それを僕は「どうやったらこうなるのかはわかるけど、どうしてこうなるのかはわからない」と表現しています。例えば、線の彫り方を教えるとしたら「こう構えてこうだよ」で説明は終わりですよね。でも、教えられた側がその通りに線を引いたとしても良い線が彫れるわけではありません。その線が良い線なのか悪い線なのかは教えてもらえます。でも、「どうしてこれが良い線になったのか」という感覚は、実は教える側も体で覚えているので、本当のところは言葉では伝えられないんです。時間をかけて自分で体得するしかない。マニュアル通りにやればすぐにうまくできるという話ではないんですよ。

自分にしかできないことを常に考えています

今、3Dプリンタというすごい工作機械があります。何かと同じ物を金属で作りたいと思ったら、人間が作るよりずっと早く安くできてしまうという時代が迫っているわけです。そうすると例えば「線をまっすぐ彫れる」ということで機械と競っていても駄目ですよね。もちろん、その次元で勝負するためには、まっすぐ彫れることが大前提なんですよ。そのうえで、じゃあ何が一番大切かを考えると、それは「自分にしかできないことをやること」だと思うんです。自分にしかできないことがあるから、世間は自分に対してお金を払ってくれるんですから。

伝統工芸保存会をやっているわけではない

これは、僕だけでなく伝統工芸に携わる人全体に言えることだと思うんですけど、僕らは「伝統工芸保存会」では無いと考えているんです。つまり、伝統工芸を保存したくてこの仕事をしているわけではない。たまたま自分がやろうと思ったことが伝統工芸として指定されていて、それをやるには、伝統的に培われてきた技術をベースにするのが一番だと自分で思っているからそれを継承しているだけなんです。新しく便利な道具ができれば当然それを取り入れます。それは、これまでの技術革新の中で先祖たちもやってきたことです。現に、祖父も親父も彫金の起源からあった道具だけで彫っていたかというと全然そんなことはない。伝統工芸を本当にそのまま保存しようと思ったら昔ながらの道具でやるんでしょうけど、そこはこだわりません。僕らは「伝統工芸保存会」ではないんですよ。

「最近の若い者たちは……」という批判は責任の押しつけ

弟子入り希望者の中には、僕らの考え方とは真逆に「伝統工芸」という言葉に憧れてくる人もいます。やりたいことを探した結果、伝統工芸だったというなら話はわかりますけど、「伝統工芸がしたい」だけでは困ってしまいますよね。もちろん、真摯にこの仕事がしたいときてくれる若者もいます。ただ、今は色々な意味で余裕が無いですから、申し訳ないなと思いながら断っていますね。だから、若者に対しては気の毒だなと思うことはあります。こういう仕事は、もちろん経済的な安定を目的にしてやるわけではないですが、今はそういう面での土壌があまりに無いような気がするので。彫金に限らず、夢や目標があってもチャレンジしづらい環境なのかもしれません。本当はそういう若者を応援してあげるのは我々大人の責任なんですけど、我々にも余裕が無いですからね。そうしたなかで「最近の若い者たちは……」と批判するのは責任の押しつけですよ。大人がそういうことをしちゃいけない。

大人は自分の仕事にいつまでも責任を持つ

大人である以上は、常に自分の言動に責任を持てないといけないし、持たないといけない。仕事で言えば、僕は自分が世に出した作品に対していつまでも責任を持つんです。責任を持てるという自信もあるし、持たなきゃいけないという義務感も当然ある。常にそれは意識していなければいけない。「今日は気分が乗らないから嫌だ」というわけにはいかないんです。やらなきゃいけないことは責任をもってやる。もちろん、作品のクオリティは落せないし落としていいはずもない。大人の仕事、プロの仕事ってそういうことだと思うし、アマチュアとの一番の違いもそこにあるんじゃないでしょうかね。

小川真之助さん
東京彫金

こんな話題でお悩みではありませんか?

キッチン・玄関は運気を左右する場所。風水で運気アップを!

清潔で明るいキッチンや玄関はそれだけで気持ちがいいものですが、風水を工夫すればさらに運気が...

炊飯器ひとつで本格リゾットが完成! カマンベールとベーコンのリゾット

炊飯器を開いて、お米の上にカマンベールチーズがまるごとドン!牛乳を加えてさっとまぜれば、と...

カーテンはフックをつけたまま洗えば、より手軽!

季節の変わり目にカーテンを洗いたいけれど、フックを取り外すのも面倒だし、干す場所がない……...

あなたの賃貸暮らしが豊かになるお話